AGRI NEWS [MAFF アプリ連携-農林水産省]
2021年09月09日
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【農業DXの事例紹介⑦】施設栽培でのデータ活用による生産の拡大と経営の改善・発展
(写真上:ハウス内で意見交換をする普及指導員と農業者の皆さん)
(写真下:タブレットを用いた営農指導の様子)
今、社会全体で、デジタル技術を活用して産業や社会をより良いものへと変革することを目指すデジタルトランスフォーメーション(DX)の取組が進められています。
農林水産省としても、農業や食関連業界の関係者の皆様に、通信機能を備えたセンサーやロボット、AIなどのデジタル技術を経営に活かしていただきたいと考えていますが、現場からは、「デジタル化やDXという言葉を聞くようになったがどういう意味だろう」、「参考にできる事例はないのか」といった声が聞かれます。
そこで、多くの皆様に農業分野でのDXの具体的なイメージを持っていただけるよう、農業や食関連業界におけるDXの実践事例を紹介していきます。
第7回目の今回は、宮崎県の施設園芸でのデータ活用の取組を取り上げます。宮崎県では、農業者のグループと普及指導員が連携し、環境制御システムから得られるデータを活用する取組が進められています。宮崎県庁で普及事業を担当されている農業普及技術課の西森竜一さんから、収量増大だけでなく、経営面での様々な波及効果について伺いましたので、その内容をご紹介します。
――本日はよろしくお願いします。まず、普及組織による施設園芸でのデータ活用支援の取組がどのようなきっかけで始まったのか教えてください。
宮崎県は日本でも有数のきゅうりやピーマンなどの施設野菜の生産地ですが、病害虫の防止や収量の向上を図るためには、ハウス内部の温度や湿度、養分や水分などをコントロールする環境制御技術の導入が重要と考えていました。10年ほど前から、一部の農業者で作物の成長を促進させるCO2施用機や、ハウス内の温度、湿度やCO2濃度などを測定する機器の導入がみられましたが、面的な普及はなかなか進まない状況が続いていました。
そのような中、2015年に、宮崎市内の若手きゅうり農業者グループの皆さんが、普及センターに、「測定機器を導入したんだがどう使ったらよいか教えてほしい」、「測定機器で得られたデータをどのように活用すればよいか分からない」と相談に来られたのが、そもそもの始まりでした。
――普及指導員の方々は、そのような声にどのように応えたのでしょうか?
まず、宮崎市内で立ち上げられていたハウス内の環境データの分析法や活用法などをグループ内で検討・議論する勉強会において、データをどのように見極めるかという分析方法や、分析結果を実際の栽培に活かすための技術講習などを実施しました。
その際、普及指導員が、測定機器から得られるデータを収集し、勉強会に提供するために整理・加工する作業を行い、データ分析のサポートを行いました。
普及組織としては、普及指導員自身の意見を押し付けるのではなく、勉強会に参加している農業者の方々の言わば伴走者として、一緒にデータの分析や活用方法の検討に取り組むようにしました。日々蓄積される膨大な環境データの入力・整理作業を日中の営農指導業務が終わった後に手作業で行うなど、大変苦労したと聞いています。
――普及指導員の方がデータ分析のサポートをされているんですね。
はい。2018年からは、データ入力などの負担を軽減するため、営農支援ツールを提供しているIT事業者の協力を得て、収集データの整理やグラフなどで分析データを可視化するといったことも行いました。
――データを活用した施設園芸の取組が徐々に本格化していったんですね。その結果、実際にどのような効果が生まれましたか?
勉強会に参加した農業者の平均単収が、立ち上げ当初(2014年)から4年後(2018年)には2割以上増加するなど、目に見えて向上しました。これによる収益の増加は、環境測定機器のコストが1年で回収できる水準に相当します。新規就農者でも、他の農業者のデータを参考にすることで、普通なら10年はかかるベテランの農業者の収量をわずか数年で達成している方もいます。
その結果、施設栽培でのデータ活用に取り組みたいという農業者が県内各地に広がっていきました。現在では、ピーマンやミニトマトといった他の品目にも勉強会の動きが広がっています。
中には、日射量、潅水量、外気温の測定機器を追加で導入して、収量増加につながるデータの分析を試みたり、地上部の生育量だけでなく地下部の生育量の測定を試みたりするなど、探求心旺盛な農業者も次々出てきています。
――収量の増加で、収益向上だけでなくいろいろな効果が挙がっているのですね。
はい、収量の増加だけではなく、農業者自身の意識や考え方にも変化があったと思います。「収量増加で手取りが増えた」とはっきり実感できたことで、「どのように生産するか」ということに留まらず、「どのように収穫・販売すればよいか」というマネジメントやマーケティングの部分にまで目を向けるようになった農業者が増えてきています。
収量が増えると収穫作業の人手が足りなくなってきます。このため、どうやって収穫時期を平準化させようか、とか、収穫期の人手の確保を計画的に行うことでさらなる収量増を目指している農業者もいます。
さらには、収量の予測にチャレンジしている方もいますし、出荷する際、生産者団体の販売担当者と販売方法について意見交換するようになった農業者もいます。
――データを活用することで経営全体の改善・発展につながっているのですね。最後に、宮崎県でのデータ活用普及の今後の取組について教えてください。
宮崎市で始まった勉強会の取組の成果を見て、「そんなに収量が上がるのなら自分の地域でもやってみよう」ということで、県内の他の地域にも施設栽培のデータ活用の取組が広がりつつあります。
このように、地域内でデータを交換して、農業者の方々が切磋琢磨しながら収量の増加や経営の発展につなげていく取組をさらに後押ししていきたいと考えています。
データの分析では、現在はIT事業者の力を借りている部分も大きいですが、農業者自身でデータを見極め、主体的に経営に活かしていけるようなスキルを付けていくことも重要です。普及組織としては、宮崎県の農業のなお一層の発展に向けて、農業者の方々の技術の向上と、農業生産の持続的な拡大に力を注いでいきたいと思っています。
――ありがとうございました。
===
いかがでしたか。今後も、DXに取り組む農業・食品産業の方を取材・紹介していきます。
それでは!
※過去の「農業DXの事例紹介」は、以下「アプリ関連記事」欄からご覧になれます。
(写真下:データ活用に関する勉強会の様子)
(写真下:タブレットを用いた営農指導の様子)
今、社会全体で、デジタル技術を活用して産業や社会をより良いものへと変革することを目指すデジタルトランスフォーメーション(DX)の取組が進められています。
農林水産省としても、農業や食関連業界の関係者の皆様に、通信機能を備えたセンサーやロボット、AIなどのデジタル技術を経営に活かしていただきたいと考えていますが、現場からは、「デジタル化やDXという言葉を聞くようになったがどういう意味だろう」、「参考にできる事例はないのか」といった声が聞かれます。
そこで、多くの皆様に農業分野でのDXの具体的なイメージを持っていただけるよう、農業や食関連業界におけるDXの実践事例を紹介していきます。
第7回目の今回は、宮崎県の施設園芸でのデータ活用の取組を取り上げます。宮崎県では、農業者のグループと普及指導員が連携し、環境制御システムから得られるデータを活用する取組が進められています。宮崎県庁で普及事業を担当されている農業普及技術課の西森竜一さんから、収量増大だけでなく、経営面での様々な波及効果について伺いましたので、その内容をご紹介します。
――本日はよろしくお願いします。まず、普及組織による施設園芸でのデータ活用支援の取組がどのようなきっかけで始まったのか教えてください。
宮崎県は日本でも有数のきゅうりやピーマンなどの施設野菜の生産地ですが、病害虫の防止や収量の向上を図るためには、ハウス内部の温度や湿度、養分や水分などをコントロールする環境制御技術の導入が重要と考えていました。10年ほど前から、一部の農業者で作物の成長を促進させるCO2施用機や、ハウス内の温度、湿度やCO2濃度などを測定する機器の導入がみられましたが、面的な普及はなかなか進まない状況が続いていました。
そのような中、2015年に、宮崎市内の若手きゅうり農業者グループの皆さんが、普及センターに、「測定機器を導入したんだがどう使ったらよいか教えてほしい」、「測定機器で得られたデータをどのように活用すればよいか分からない」と相談に来られたのが、そもそもの始まりでした。
――普及指導員の方々は、そのような声にどのように応えたのでしょうか?
まず、宮崎市内で立ち上げられていたハウス内の環境データの分析法や活用法などをグループ内で検討・議論する勉強会において、データをどのように見極めるかという分析方法や、分析結果を実際の栽培に活かすための技術講習などを実施しました。
その際、普及指導員が、測定機器から得られるデータを収集し、勉強会に提供するために整理・加工する作業を行い、データ分析のサポートを行いました。
普及組織としては、普及指導員自身の意見を押し付けるのではなく、勉強会に参加している農業者の方々の言わば伴走者として、一緒にデータの分析や活用方法の検討に取り組むようにしました。日々蓄積される膨大な環境データの入力・整理作業を日中の営農指導業務が終わった後に手作業で行うなど、大変苦労したと聞いています。
――普及指導員の方がデータ分析のサポートをされているんですね。
はい。2018年からは、データ入力などの負担を軽減するため、営農支援ツールを提供しているIT事業者の協力を得て、収集データの整理やグラフなどで分析データを可視化するといったことも行いました。
――データを活用した施設園芸の取組が徐々に本格化していったんですね。その結果、実際にどのような効果が生まれましたか?
勉強会に参加した農業者の平均単収が、立ち上げ当初(2014年)から4年後(2018年)には2割以上増加するなど、目に見えて向上しました。これによる収益の増加は、環境測定機器のコストが1年で回収できる水準に相当します。新規就農者でも、他の農業者のデータを参考にすることで、普通なら10年はかかるベテランの農業者の収量をわずか数年で達成している方もいます。
その結果、施設栽培でのデータ活用に取り組みたいという農業者が県内各地に広がっていきました。現在では、ピーマンやミニトマトといった他の品目にも勉強会の動きが広がっています。
中には、日射量、潅水量、外気温の測定機器を追加で導入して、収量増加につながるデータの分析を試みたり、地上部の生育量だけでなく地下部の生育量の測定を試みたりするなど、探求心旺盛な農業者も次々出てきています。
――収量の増加で、収益向上だけでなくいろいろな効果が挙がっているのですね。
はい、収量の増加だけではなく、農業者自身の意識や考え方にも変化があったと思います。「収量増加で手取りが増えた」とはっきり実感できたことで、「どのように生産するか」ということに留まらず、「どのように収穫・販売すればよいか」というマネジメントやマーケティングの部分にまで目を向けるようになった農業者が増えてきています。
収量が増えると収穫作業の人手が足りなくなってきます。このため、どうやって収穫時期を平準化させようか、とか、収穫期の人手の確保を計画的に行うことでさらなる収量増を目指している農業者もいます。
さらには、収量の予測にチャレンジしている方もいますし、出荷する際、生産者団体の販売担当者と販売方法について意見交換するようになった農業者もいます。
――データを活用することで経営全体の改善・発展につながっているのですね。最後に、宮崎県でのデータ活用普及の今後の取組について教えてください。
宮崎市で始まった勉強会の取組の成果を見て、「そんなに収量が上がるのなら自分の地域でもやってみよう」ということで、県内の他の地域にも施設栽培のデータ活用の取組が広がりつつあります。
このように、地域内でデータを交換して、農業者の方々が切磋琢磨しながら収量の増加や経営の発展につなげていく取組をさらに後押ししていきたいと考えています。
データの分析では、現在はIT事業者の力を借りている部分も大きいですが、農業者自身でデータを見極め、主体的に経営に活かしていけるようなスキルを付けていくことも重要です。普及組織としては、宮崎県の農業のなお一層の発展に向けて、農業者の方々の技術の向上と、農業生産の持続的な拡大に力を注いでいきたいと思っています。
――ありがとうございました。
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いかがでしたか。今後も、DXに取り組む農業・食品産業の方を取材・紹介していきます。
それでは!
※過去の「農業DXの事例紹介」は、以下「アプリ関連記事」欄からご覧になれます。
(写真下:データ活用に関する勉強会の様子)
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情報元: 農林水産省
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