井関農機株式会社

除草剤に頼らない水田雑草対策に挑戦

営農・栽培技術

除草剤に頼らない水田雑草対策に挑戦

雑草の発生は稲の収量、品質を大きく左右すると言われいます。今回は水田に雑草が発生すると稲はどのような被害を受けるのか、またその被害を防ぐためどのような雑草対策を取ればよいのかについて、詳しくご紹介していきます。

これから有機水稲栽培や、栽培期間中に除草剤を使用しない水稲栽培への挑戦をお考えの方は必見です。

水田雑草が水稲に与える影響

除草剤を使用しない代表的な栽培体系として有機栽培が挙げられます。有機栽培では化学肥料が使用できないため、たい肥等の有機栽培で使用可能な肥料を施用します。これらの有機質肥料は肥効が出るのが遅く、気温によってもそのタイミングが異なります。そのため稲が養分を必要とする時期に肥料を効かせることが難しいのです。併せて農薬も使用できないため病害虫の被害を受けやすく、一般的に有機栽培の収量は慣行栽培と比べて2割程度低くなると言われています。

以上のように有機栽培では様々な要因によって減収しやすくなってしまうのですが、雑草の発生もその中の大きな要因の一つとなります。大型の雑草が繁茂し稲を覆ってしまうことにより稲の生育が抑制されたり、雑草の発生密度が増えることで、本来稲が吸収するはずだった窒素分を雑草に吸収されたりするため収量が少なくなってしまうのです。

減収の程度は雑草の発生量が多くなるほど顕著になりますが、雑草の種類によっても異なります。コナギ等の一年生雑草のみであれば20~50%、ホタルイやミズカヤツリ(大型のカヤツリグサ科)では30~50%、クログワイ、コウキヤガラでは50~70%の減収率に及ぶとも言われています。

また、ホタルイやイネ科雑草の発生量が増えることで斑点米の原因となるカメムシ類の害虫が増え、雑草種子が玄米に混入することで米の品質が低下します。

有機水稲圃場でコナギが繁茂して雑草の被害が出ている様子
コナギの被害
有機水稲圃場でクログワイが繁茂して雑草の被害が出ている様子
クログワイの被害

このような被害をさけるためにも雑草の発生は抑えたい所ですが、除草剤を使用しない場合、初年度はほとんど雑草が発生しない水田であっても、何も対策をとらなければ雑草の種子や地下茎が蓄積していき、年々発生量が増加してしまいます。

雑草が増えれば増えるほど防除は困難になり、最終的には除草剤をしない水稲栽培を諦めてしまう方も少なくありません。成功させるためには、まずはしっかりとした雑草対策をとることが重要なのです!

参考文献:森田弘彦・浅井元朗編著「原色 雑草診断・防除辞典」農文協,2014

水田雑草の対策方法

ここからは水田雑草の対策方法について解説していきます。

除草剤に頼らない水稲栽培において、雑草対策の術は大きく3つの考え方に基づきます。

  • 雑草が生えない環境を作る(耕種的防除)
  • 生き物の力で雑草を取る、抑える(生物的防除)
  • 雑草が生えたら取る(物理的防除)

それぞれの防除方法と効果の期待できる雑草種をまとめているので、雑草の種類に合わせてベストな対策を取りましょう!

耕種的防除

2回(以上)代かき

まず1回目の代かきを深水状態で行います。そうすると雑草種子が田面表層へ移動し、その後3 ~4週間湛水することで表層の種子を発芽・生長させます。その後田植え直前になったら2 回目の代かきを行います。2回目も深水状態で行い、発芽した雑草や浮き上がった種子をすくい取るなどして除去することで埋土種子量を減らします。もしくは3回目の代かきを行い、生えてきた雑草を練りこむことも有効です。                                            

※ヒエについては代かき2回目は田面ヒタヒタ程度の水量で行い、発芽した芽を練り込むのが効果的とされています。

効果の期待できる雑草種 ▷ヒエ、コナギ、ホタルイ

除草剤を使わない栽培体系で、複数回代かきが雑草対策に有効な理由を説明した図
有機水稲の田んぼで、雑草対策に効果的な複数回の代かき作業を行った後に雑草の種子が浮かんでいるの様子。
代かき後に流し寄せられたホタルイ種子
深水管理

ヒエが多い水田では、深水管理が有効です。
田植直後から5㎝以上の水位を保ち、雑草の葉を空気に触れさせないように管理することで発生が抑制されます。稲の生育に合わせて水位を10㎝~15㎝と深くすることで、発芽した雑草も浮力で抜ける効果があるとも言われています。

深水管理は常に水位を保つことが最も重要なポイントとなります。水位センサー等を使用することで効率的に水管理することができます。

※オモダカやクログワイは深水環境を好むため、これらの雑草が多い場合はしっかりと中干しすることが重要です。

効果の期待できる雑草種 ▷ヒエ、コナギなどの一年生雑草

秋耕

クログワイなどの多年生雑草は秋ごろ地下茎を生長させ、塊茎(繁殖体)を形成し増殖します。稲の刈取後は速やかにロータリー耕を行い地上部と地下茎を細断すき込みし、さらにプラウ耕による土の反転により、塊茎を冬期の乾燥にさらし枯死を促すことが効果的です。

効果の期待できる雑草種 ▷オモダカ、クログワイなどの多年生雑草

クログワイや他の多年生雑草の繁殖を抑制するため、プラウ耕で地上部と地下茎を細断し、塊茎を乾燥させて枯死させる作業の様子
有機物散布

米ぬか・くず大豆などの有機物を散布すると、土壌表面で微生物による分解が行われ、土壌表面が酸欠状態に陥ります。ヒエなどの低酸素条件で発芽が抑制される雑草種に対して発芽前に散布することで発生を抑える効果があります。また、コナギについては米ぬかやくず大豆の分解により発生する有機酸や大豆成分のサポニンという物質により発根が阻害されることが分かっており、抑草効果が期待できます。

散布時は粉状だと風による散布ムラがでやすいため、粒状・ペレット状が好ましく、散布量は米ぬかで50~150kg/10a、くず大豆であれば米ぬかと混ぜて各50kg/10a 程度が一般的です。

効果の期待できる雑草種 ▷ヒエ、コナギ

生物的防除

アイガモ農法

田植から約1週間後~出穂時期まで、アイガモのヒナを水田で放し飼いにして除草する農法です。

アイガモが餌として雑草を食べたり、泳ぐ際に足で土をかき混ぜることで雑草の芽を浮かび上がらせて除草します。

また、それだけではなく、アイガモが水田内を泳ぎ回ることで土が巻き上げられ水がにごります。このにごりにより光が遮られ雑草の光合成を阻害し生育を抑制するのです。

しかし、アイガモ農法はただアイガモを水田に放し飼いにしておけば良い、というわけではありません。毎日の餌やりはもちろん、水田の周りをネットや電気柵で囲んで、脱走したり、キツネやカラスなどに食べられたりすることを防止する必要があります。

効果の期待できる雑草種 ▷雑草全般

合鴨農法を行っている有機水稲圃場で、合鴨が田んぼを泳いでいる写真。
まったく新しい雑草対策「アイガモロボ」

前項でアイガモ農法について解説しましたが、ここで、まったく新しい雑草対策として、ISEKIが販売する自動抑草ロボット「アイガモロボ」をご紹介します。

アイガモロボは、アイガモ農法の「にごりによる抑草」という効果に着目して開発されました。本物のアイガモのように水田内を動き回り土を巻き上げ、にごりを発生させると同時に、巻き上げられた土が雑草の種子や芽の上に堆積することで、雑草の発生を抑制します。

ソーラーパネルを搭載し、太陽光発電によるクリーンなエネルギーで稼働します。また、餌やりなどの手間がかからず、ロボットなので他の動物に食べられる心配もなく安心です。

除草機と組み合わせることで防除効果を最大化することができ、除草機の使用回数低減も期待できます。手ごわい雑草と戦うための強い味方として是非ご活用ください!

新型のアイガモロボ2(IGAM2)が水田を航行する様子

物理的防除

機械除草

雑草が発生してしまった場合には、発生した雑草が大きくなる前に除草機を使いましょう。草丈3cm 程度になるまでに作業を行うことがポイントです。タイミング逃すと除草機では除草不可能の大きさになり手遅れになってしまいます。

定期的に除草作業を行い、確実に雑草の発生初期を叩きましょう。

オーレック社の水田除草機「WEED MAN」を井関農機の社員が操作している様子。機械除草の作業適期を示している。

最後に…

さて、ここまで様々な雑草対策をご紹介してきました。初めからすべての対策方法を取り入れることは中々難しいですが、まずは2回以上代かきや深水管理、有機物散布などから初めてみてはいかがでしょうか?この3つの管理をしっかりと行うだけでも、水田雑草で最も代表的とされるヒエや、厄介なコナギなどの抑制効果が期待できます。

さらに「アイガモロボ」を活用しながら栽培すれば、忙しい田植時期の除草の手間を軽減できるためオススメです。

最後に、全国でよく発生する主な雑草5種の生育特性と対策を、「水田雑草図鑑」にまとめました。除草剤を使用しない水稲栽培を続けていく中で、特定の雑草に悩まされた際に、ご活用ください。

おすすめ記事