営農・栽培技術
【事例】直播に対する不安が夢総研のサポートで払拭されました
福光園 様(奈良県奈良市)
取材日/平成28年9月21日
福光園
十五代目 園主 福井 周一さん
奈良県奈良市都祁白石町
[経営内容]
水稲:6.8ha(すべてコシヒカリ)
茶:2.6ha
乾茶冷蔵庫業
[実施面積]
湛水直播:80a
[コーティング資材]
べんがらモリブデン
直播が成功しなかった原因は低温で発芽に日数がかかるから
ー 福井さんは15代目ということですが、江戸時代からのお家なんですか?
庄屋だったんです。家系図からわかっているだけで15代。本当はもっと古いと思います。
ー 経営は水稲とお茶がメインですね。
お茶は曾祖父の代からで、今は有機JAS認証を取得してオーガニックのお茶をつくっています。うちで一番古い古木が98年。在来種で病気にも強い。気温の低いこのあたりの風土に適しているのだと思います。
ー 米も減農薬だそうですね。
外食から個人のお客様まで手広く直販していて、「おいしい」と高い評価をいただいています。
ー いわゆる「山の米」ですね。
標高は450~500mです。毎年食味コンクールにも出品していて、上位と遜色のない成績を挙げています。
ー なぜ直播が必要だったのですか?
他の地域と同様に、近年、私のところにも農地が集約してきました。育苗ハウスを増設する必要があるのですが、もうこれ以上場所がありません。また、家族経営なので、労働力の限界も感じていました。直播には以前から興味があったのですが、周りで成功している人がいなかったので採用に踏み切れませんでした。
ー 成功していない原因は?
直接聞いたわけではないのではっきりしたことはわかりませんが、このあたりは寒いので積算温度がなかなか上がらず、芽が出るのに日数がかかるんです。発芽する前に草が出てきちゃうから、我慢できなくなって苗を植え直したくなるのだと思います。
ISEKIの本気で直播への挑戦を決意
ー そのような状況でも直播の採用に踏み切ったんですね。
奈良ヰセキの的場部長に相談したら「できるんちゃうか」って軽く言われて、ほんまかいなって思いました。
ー 半信半疑だった?
的場部長から夢ある農業総合研究所の庄山さんを紹介いただいて、初めて会ってお話ししたときに「この人やったらできるんやないか!」って直感しました。
ー どんな話をしたんですか?
「できます!」「必ず芽は出ます!」とものすごく自信満々でした。「農業は観察が大事だ」とも言われました。今まで人からそんなことを言われたのは初めてでした。そこまで言われるならやってみよう!という気になりました。
ー 田んぼに「ISEKI」の幟が立っていましたね。
本気でやるなら「看板を挙げてください」ってお願いしました。自分も本気で1反なんぼの商売している。失敗しても誰も保証してくれないのだから、ISEKIさんも本気だというところを見せてほしい。その代わり自分は絶対に植え直ししないと。
ー 幟立てて、芽が出ず、草だらけの田んぼになったら恥ずかしいですね。
この地域では直播はできませんって白旗挙げるようなものですからね。
ー 発芽には何日かかりましたか?
やはり20日かかりました。
ー 発芽させるポイントは何ですか?
庄山:(井関農機 夢ある農業総合研究所 研究員)
播種のタイミングです。今年の播種は5月4日、発芽が5月下旬でした。播種から発芽まで一般的には2週間、早いところ(暖かいところ)なら1週間と言われていますが、ここでは20日が目安になります。
福井様:
発芽に日数がかかるからといって4月中に播種すると寒すぎて田んぼが凍ってしまう。それならばと遅らせて5月20日くらいに播種すると発芽する前に梅雨入りしてしまってダメ。やっぱり5月初旬が適期。ここでガッとした好天が必要なんだと思います。
ー 直播が成功したポイントはどこにあると思いますか?
庄山さんとのコミュニケーションですね。こちらから質問したり考えを聞いてもらう一方で、庄山さんからはどうですか?どうですか?ってこまめに連絡いただいて、現状報告することで自分も安心できました。
ー 話しをすることが重要なんですね。
それがなかったら、まず直播はやっていなかったでしょうね。直播は標高の低い平地でやるのと、ここのように500mくらいのところでやるのとではぜんぜん違います。タイミングとか細かいことがわかっていないと失敗する。「ほっといたら出るやろ」という感覚では絶対に発芽しないと思います。
自分が先駆者となって直播ができることをアピールしていきたい
ー 今年の田んぼを見て、直播のイネの出来はどうですか?
量も米の綺麗さもいい感じですね。
ー 収量は?
510kgです。ほぼ目標に近い量が穫れました。食味や整粒歩合も概ね満足できるレベルでした。
ー 今後の経営はどのようにお考えですか?
基本的には家族経営でやれる範囲で考えています。新しい販路が見つかったら、人を雇って面積を増やすことも検討したいですね。
ー そのときは直播がポイントになってきますね。
直播のできる条件の良い田んぼはそうしていきたい。自分が先駆者になってアピールしていったら この地域でも直播がもっと増えていくと思います。そう思ったから今年はあえて目立つ場所でやったんです。
ー できるところを証明する。
誰だって苗を運んだり持ち上げたりするのはしんどい。買えば高い。直播でうまくいくことが証明できれば、この地域の農業にも必ずプラスになると思っています。