営農・栽培技術
密播疎植Q&A
「疎植」と「密播」を組み合わせた水稲の低コスト栽培技術「密播疎植」。密播疎植を導入すれば、移植時の面積あたりの使用箱枚数が減り、育苗コストや労力が削減できるのはもちろん、育苗規模を変えずに作付面積の拡大が可能になります。
ここでは密播疎植に関する疑問にお答えします。
目次
~疎植について~
Q.疎植栽培を導入するとなると、栽培方法も今までのやり方とは違ってくるの?
A.疎植栽培は従来の栽培方法と同じ延長線上の移植栽培なので、疎植栽培だからといって特別な技術や新しい機械、資材を必要とするものではありません。栽植密度が違うだけで、決して難しく考える必要はありません。
Q.疎植にしても本当に収量は減りませんか?
A.栽植密度が違うだけで、収量は基本的に慣行栽培と同等です。井関グループでは、試験栽培などを通じて日本全国の地域条件やさまざまな品種に適した栽培ノウハウの確立に取り組んでいます。また、全国各地の井関グループ営業拠点には疎植営農指導員が在籍していて、地域密着型のサポートを展開しているため、初めての方でも安心して疎植栽培に挑戦していただけます。
Q.疎植は株間が広いから、雑草が生えやすいのではないですか?
A.疎植は雑草が生えやすいと考えている人が多いようですが、除草剤の散布の仕方で解決できるレベルの問題です。『除草剤を散布する際、しっかり水深を保ち、地表に均一な処理層をつくる』という除草剤使用の鉄則を守ってください。
Q.苗が半分なら、肥料も半分でよいのでは?
A.基本的に肥料は慣行と同等量必要です。疎植では面積あたりに使う苗は半分ですが、株あたりから多めに穂数をとり、面積あたりでは慣行と同等量の籾を生産します。慣行より施肥量を減らすと穂数が十分に確保できず、減収の原因となりますのでご注意ください。
Q.疎植の稲は、慣行栽培と比べて生育のプロセスが異なるのですか?どのあたりを注目して見ればいいですか?
A.疎植の稲は、慣行栽培と比べて植付株数が少なくても面積あたりの収量は同等になるのが特徴です。適正な数の茎数をとれているかどうかが、収量・品質を確保するうえで重要なポイントになります。また、籾の熟れ方が、慣行栽培より時間がかかるため、収穫適期はやや遅くなります。
Q.疎植でやってみたけれど、収量が減ってしまった!どうして?
A①.分げつをさせすぎた結果、茎が細くなり、籾が少なくなってしまったことが原因と考えられます。疎植栽培では分げつが旺盛になりがちですが、茎数が多くなりすぎると収量にはマイナスになります。適切な水管理を基本として、地域・品種に応じた適正茎数を確保するよう心がけてください。(疎植茎数指標はこちら →日本各地の疎植栽培暦)
A②.茎数がとれて穂が実ったものの、後半になって肥切れし、登熟歩合が上がらなかったことが原因と考えられます。分げつのとりすぎが第一の要因ですが、地力が低いと後半になって肥切れを起こします。疎植の場合には、穂肥時の窒素量が総量の4割以上になるように施肥してください。
Q.今使っている田植機は37株植ができません。どうすればいいですか?
A.ぜひとも井関田植機の購入をご検討ください。井関田植機は、全機種の乗用田植機で37株疎植が標準装備となってます(歩行型田植機・ポット田植機は除く)。
Q.直播の方が疎植より低コストなんじゃない?
A.育苗のプロセスを省略できる直播は確かに効果の高い低コスト栽培技術です。ただし、冷涼・湿潤な気候条件下では出芽・苗立ちが不安定になりやすく、コシヒカリなどの品種では倒伏のリスクが高くなります。また、種子の休眠性が強い品種では苗立ちが悪いなど、ある程度の制約を覚悟する必要があります。その点、移植で行われる疎植栽培は、発芽の心配がなく、初期生育が安定しているため、「リスクの小さい低コスト栽培技術」と評価されています。
Q.全国で気候が違うけど、同じやり方で大丈夫?県からは密植をすすめられているけど?
A.つくり方は基本的には同じです。ただし、植付本数に気をつけましょう。植付本数は基本的に3~4本/株ですが、寒冷地では少し多めに4~5本/株とします。また、出荷の際、県で植付株数が指定されている場合は、その株数で移植するようにしましょう。
Q.飼料稲(WCS)は子実だけでなく茎・葉も利用するから、株数の少ない疎植栽培は不利なのでは?
A.東北農研センターによる試験栽培(平成22年)では、疎植による飼料稲の収量(黄熟期乾物収量)は通常と比べて2%減、多肥区では通常と同程度の収量でした。疎植による低コスト・省力化を勘案すれば、飼料稲(WCS)でも充分に導入効果が期待できると評価されています。
~密播について~
Q.密播疎植オプション部品を装着した場合、慣行苗は植えられますか?
A.横送り回数の調整で植えられます。
密播時苗取口規制プレートを装着すると、縦幅がせまく規制されるため、縦かき取り量の調整幅が8~11mmに限定されます。慣行苗を植える際は、横送り回数を少ない側に調整し(28回→24回)、かき取るブロックの横幅を広くして対応します。
慣行苗が極端な薄播きの場合は、対応ができませんのでプレートを取り外してください。
他にも下記部品については、慣行苗の植付時に装着していても問題ありません。
・苗おさえピース
・オプションフォーク
・広幅ブンリバリ
横送り回数 | 28回 | 24回 |
---|---|---|
横幅(mm) | 10 | 12 |
Q.PRJ・PRより前の型式の田植機でも、ギヤの交換で横送り回数を増やすことができますか?
A.下の表を参考にオプション部品を選んでください。
NP50~80(8型)は、横送り28回が標準装備です。8型以外は、オプションギヤを組み込むことで、横送り回数を28回まで増やすことができます。組み替え後の横送り回数の組み合わせは、機種によって異なります。
組み換え前 | 組み換え後 | |
---|---|---|
NP80(8型除く) | 18-20-24回 | 18-20-28回 20-24-28回 |
NP70,60,50(8型除く) | 20-24回 | 20-28回 24-28回 |
PZ80,83 | 18-20-24回 | 18-28-24回 |
PZ70,60,50,73,63,53 | 20-24回 | 28-24回 |
Q.苗の徒長を防ぐにはどうしたらいい?
A.高温多湿な環境や、過かん水の場合、苗が徒長することがあります。苗を徒長させないためには以下のポイントに注意して育苗を行ってください。
資材 管理方法 | 注意すべきポイント |
---|---|
十分な換気 | 高温になると、苗が徒長しやすくなります。十分に換気を行い、高温にならないよう注意しましょう。 |
適切なかん水管理 | 過かん水は徒長の原因となります。かけすぎに注意してください。 |
肥料分の少ない培土の使用 | 肥料分の多い培土を使用している場合、徒長の原因となります。 肥料分の少ない培土に変更することで、徒長を抑えることができます。 |
苗踏みローラーの使用 | 適期に苗踏みローラーを使用することにより、苗の徒長を防ぐことができます。 【実施時期】 ①発芽後の土落とし ②1回目の茎曲げ(苗丈4cmの頃) ③2回目以降の茎曲げ(5~7日ごと) ※実施は合計3~4回が適正です。 |
Q.密播だとムレ苗が起こりやすそう・・・
A.密播はムレ苗の発生リスクが高くなる傾向があります。ムレ苗を発生させないため、以下のポイントに注意して育苗を行ってください。
資材 管理方法 | 注意すべきポイント |
---|---|
十分な換気と夜間保温 | 高温・多湿にならないよう、十分に換気を行い、夜間に低温になる際は側窓を閉めるなど、保温に努めてください。昼夜の温度差が大きくならないように温度管理を行ってください。 |
適切なpHの培土の使用 | pHが4.5~5.5の培土を使用してください。ヰセキ純正培土の使用をおすすめします。 |
苗箱の消毒 | 消毒済の苗箱を使用してください。 |
農薬の使用 | ムレ苗・苗立枯病に効果のある薬剤の使用が有効です。使用方法に従い、播種時かん注や土壌混和を行ってください。 |
Q.大粒品種の場合、播種量はどうすればいい?
A.密播では1箱あたり何粒播種するかが重要であり、籾千粒重の重い品種ではその分播種量(g)を増やす必要があります。
例)コシヒカリ乾籾220g(約8,000粒)と同等の播種量を確保するには、下表の播種量に設定する必要があります。
籾千粒重(g) | 乾籾220gの粒数(粒) | 8,000粒にするために必要な乾籾重(g) | |
---|---|---|---|
コシヒカリ | 27.3 | 8,059 | 220 |
山田錦 | 31.5 | 6,984 | 252 |
べこあおば | 39.1 | 5,627 | 313 |
Q.箱処理剤の使用量はどうすればいい?
A.以前は箱処理剤の施用量は一般に50g/箱と規定されていましたが、現在は密播苗に対応し100g/箱まで施用できる製品が出ています。密播の場合、慣行と同様の50g/箱だと一株あたりの薬剤量が少なくなってしまうので、密播対応の箱処理剤で100g/箱程度施用するのが望ましいです。また種子処理剤を使用することでも、一株あたりの薬剤施用量の減少を防ぐことができます。
~密播疎植について~
Q.浮き苗が心配だな・・。気を付けることはある?
A.密播苗は床土のブロックが慣行に比べて小さく軽いため、浮き苗が起こる可能性があります。密播疎植では面積あたりの植付株数が少ないため、浮き苗によって欠株が起こると収量への影響が出るおそれがあります。浮き苗を防ぐために、以下のポイントをおさえて取り組みましょう。
症状 | 原因 | 対応 |
---|---|---|
苗がばらけて植わる。 1~2本だけ離れて植付が乱れる。 | ●苗のマット強度が不十分。 ●苗の床土が砂質で苗床に粘りがない。 ●苗の床土が乾いている。 | ●マットが十分に形成するまで田植えを遅らせる。 ●育苗培土をヰセキ純正製品に変更する。 ●苗に水をかける。 |
入水すると浮き苗になる。 | ●ほ場の土が硬く爪であけた穴がふさがらない。(砂質系のほ場で顕著) ●移植時に深水にしている。 ●代かきが不十分。 | ●代かき~田植えまでの日数を短くする。 ●移植時は水をヒタヒタまで落とす。 ●代かきを丁寧に心がける。 ●入水を2~3日待ち、活着してから入水する。(除草剤は後日) |
苗が植付爪から離れず欠株、または苗が転ぶ。 | ●育苗培土が粘土質で粘りが強い。 ●粘土質のほ場で水が少ない。 ●植込フォークの押し出しが遅い。 (気温の低い条件など) | ●苗に水をかける。 ●1~2cmほど水を入れる。 ●作業前にPTO状態で植込かんをまわし、十分に暖気運転をする。 ●フォーク(OPT)を取り付け、持ち帰りを防止する。 |
Q.植えてみたらだいぶさみしい感じになってしまったけど、大丈夫?
A.田植え後しばらくは苗がまばらで寂しく感じますが、密播疎植では生育が非常に旺盛なので、慣行同等まで追いついていきます。最終的な穂数については地域、品種ごとの指標を確認し、目標穂数の8割程度の茎数が確保できているか確認してから中干しに入ることで穂数を確保しましょう。