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10万円/10aの所得で生産者が元気になる仕組みづくりをめざす! 世界の穀物価格の高騰で飼料用米に対する期待が再燃

「冬場でも屋根の下でできる仕事で村おこしにしよう」と津軽地方の小さな村に設立されたのがトキワ養鶏(常盤村養鶏農業協同組合)である。旧常盤村(現藤崎町)はもともと水田単作地帯で、冬期は出稼ぎに頼る人が多かった。トキワ養鶏ができたことによって、村は活気づいた。鶏糞は良質な堆肥として水稲や野菜作に活用された。鶏糞堆肥でリンゴ農場を広げ、リンゴの剪定枝でハムやソーセージをスモークする加工品部門も立ち上げるなど、養鶏を軸に事業は発展していった。養鶏飼料に米の活用を検討するようになったのは今から12年前。この年、中国産トウモロコシが不作で輸入がストップしたためだ。しかし、「鶏に米を食わすなんてとんでもない!」と周囲からの反発が大きく、このときは米国からトウモロコシを輸入して急場をしのいだ。時は流れ近年、世界的な穀物価格の高騰により、飼料用米に対する期待が養鶏業界で再燃した。トキワ養鶏では独自に飼料用米の可能性を検証するため、平成17年から試験栽培を開始した。自社農場で20a、近隣農家5件と合わせて1ha。飼料用の種籾が足りなかったため、品種は多収性の“むつほまれ”を流用。飼料用の“べこあおば”も4aだけ植えてみた。

16俵/10aの収穫で地区の有力農家が本気になった

収穫間近の「べこあおば」「鶏糞堆肥を入れただけで、あとは何もしませんでした。悪く言えば『どうでもいい』という感覚」と振り返るのはトキワ養鶏の石澤専務。結果、“むつほまれ”の収穫は散々だった。しかし、“べこあおば”の収量はなんと16俵/10a。その圃場の収穫作業を任されたのが、地元農家の佐々木寿徳さんだ。「ずいぶん穫れるべや!」と驚くとともに手応えを感じた佐々木さんは、このときから生産者側のキーマンとして飼料用米づくりに意欲を燃やすこととなる。「佐々木さんが本気になってくれたおかげで、飼料用米づくりが本格的に動き始めたんです」と石澤専務は言う。水稲10 haを経営する佐々木さんは、この地区の有力農家の一人。他の農家への影響力は大きい。佐々木さん自身も今年は1.8 haで飼料用米を作付けしている。「飼料用米は持っている機械でできる。鶏糞はトキワ養鶏からサービス価格で購入できる。収量は上がるし、値段もまあまあだしね」。佐々木さんは、それまで転作大豆を作付けしていたが、そのほとんどを飼料用米に切り替えた。

米を食べた鶏が産む卵に問い合わせは増加の一途

トキワ養鶏の配合飼料は通常、トウモロコシ57%に大豆・魚粉を加えたもの。現在、トウモロコシ57%をまるまる玄米に変えた配合飼料を400羽に与えている。この400羽が生む卵は、「玄米玉子」として生活クラブ生協や県内デパートで販売されている。値段は6個で600円。 「全国で養鶏されている1億2000万羽の中で、米を食べさせているのはウチの400羽だけ。希少価値を考えると決して高くはありません」とトキワ養鶏の常田広報室長は言う。玄米玉子は普通の卵と違って黄身の色が薄く、健康に良いオレイン酸と旨味成分の含有値が高い。加熱すると黄身はさらに白くなる。「昔懐かしい味がする」と評判はすこぶる良い。全国からの問い合わせは増加の一途で、まとめ買いの場合は1〜2週間待ちの状態だ。その美味しさは、佐々木さんもお墨付きを与える。「うちの6歳の孫は、玄米玉子の卵かけごはんだと『さっぱりして美味しい』って2杯は食べるんだ」。

米配合飼料の対象を4000羽に新ブランドで全国展開

今年から飼料用米専用にJA津軽みらいのサイロを使用できるようになった。これにより藤崎町で収穫された飼料用米は、全量がJAのライスセンターに搬入される。このようにJAが飼料用米専用にサイロを提供するのは、全国的に見ても前例のないことで、管内農家の理解がなければできない。JAのサイロを利用できるようになったことで、トキワ養鶏では玄米で配合していた餌を、来年から籾に切り替える。生産者はこれまで自分で乾燥・籾摺りを行い、玄米を袋詰めにしてトキワ養鶏に引き渡していたが、全量サイロ搬入になったことで、これらの生産コストを削減することができる。来年からは、米配合飼料を与える鶏を4000羽に拡大し、新ブランドを立ち上げ、全国展開をめざす。目標価格は1個50円。国内自給率100%に近い鶏卵が全国の店頭に並ぶことになる。さらに将来の目標は、同社が養鶏している全45万羽。そのためには2000haの作付面積が必要となる。今年、青森県飼料用米利用協議会を設立し、県内の他地域でも休耕田対策の一環として産地の取りまとめを進めていく計画だ。

飼料用米の10a当たりの収入額 自治体、JA、生産者の連携で作付面積は前年比10倍増

飼料用米に対する助成は産地づくり交付金が6.35万円。価格はトキワ養鶏の全量買い取りで50円/kg 。トキワ養鶏にとって小さくない負担だが、生産者にとっては600kg/10aの収穫があれば3万円の売上げになる。常田室長は言う。「農家にとって10万円/10aの所得になるような仕組みをつくりたいのです。これが農家の元気につながればというのが当社の考え方です。10年前のトウモロコシの価格に近づけるのではなく、現状の穀物価格を見越した考え方だから50円。将来、米がトウモロコシに代わる飼料になるためにも、1t/10aくらい収穫できるよう生産者の方にも努力してもらいたいんです」。今年の飼料用米の作付面積は、昨年の1.5 haから10倍増の15 haに。藤崎町における飼料用米づくりは、自治体、JA、生産者の連携によって大きく拡大した。

飼料用米も最後は人の口に入る安全性をないがしろにできない

佐々木さんの圃場では県からの依頼で、より多収性の高い新品種の試験栽培を行っている。今年の収穫データ次第では、新品種でさらに飼料用米の面積を増やすことができる。佐々木さんは、旧常盤村内の耕作放棄地を借り受けて飼料用米の作付けをすることにした。藤崎町では100haあった休耕地が、今年は15 ha減少した。「休耕田は用水もダメにしちゃう。飼料用米をやることで、草ボーボーの休耕田が田んぼになることが嬉しいんだ」。佐々木さんが栽培した“べこあおば”の稲の状態を見て、飼料用米をやりたいという相談が増えた。相談者はまず佐々木さんのところに行く。今年、佐々木さんの周りでは飼料用米をやる農家が12軒に増えた。「世間からみたら飼料用米かもしれないけれど、私たちから見たら、鶏でも豚でも最後は人の口に入るものだから、主食用米と同じ気持ちでつくってるよ。安全性だってないがしろにはできないんだ」。藤崎町における飼料用米への取り組みは、畜産と耕種農業の連携が、食料・穀物自給率の向上を実現可能なものにすることを私たちに教えてくれている。



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